アジアの民族紛争解決
少数民族の若手リーダー達が分断を乗り越え、平和をつくりだす学びの旅を実現したい!
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2025/9/27 16:06
政変とチッタゴン丘陵地帯のこれから
昨年、バングラデシュは歴史的な転換点を迎えました。
2024年7月。ある法案に対する学生デモが各地に広がり、やがて首相の即時辞任を要求する全国的なデモに発展しました。1000名以上の犠牲を伴いながらも、結果的に首相の国外逃亡と退陣をもたらす結果となりました。
バングラデシュ全体としては、市民の手で民主化を勝ち取った出来事として評価され、比喩的に「バングラデシュ2.0」と呼ばれることもあります。その後は、軍の伴走により暫定政権が発足され、ムハマド・ユヌス氏をトップに17名による統治が行われています。主に治安回復や公正な選挙の実施など、新しい民主化への橋渡しを行う役割を引き受けました。
新しい民主化の象徴である総選挙は来年2月にも実施すると発表されており、その準備が進められています。不安定な状況はあるものの、バングラデシュ全体としては新たな体制へと向かう1年でした。
一方で、チッタゴン丘陵地帯からの視点では、必ずしも民主化をもたらしたと単純に捉えることはできません。むしろ、より難しい環境になっているとも言われます。
もちろん学生デモのピーク時には、多数派のベンガル人とも連帯を見せたり、政変直後にはマイノリティ題材の映画上映など前向きな兆しも観測されました。しかし、その後は風船が萎むように以前の構造に戻っていきました。
特に、政変後の1年間で大きな2つの事件がありました。これらは、根本的な政治構造が依然として継続していることを象徴的に示す結果となりました。
まず一つ目が、2024年9月にチッタゴン丘陵地帯のカグラチャリ県、ランガマティ県で発生した衝突事件です。ある個人的なバイク窃盗事件から批判の応酬がはじまり、すぐに民族間対立の枠組みに接続されました。その後の2日間で暴動が発生し、少数民族政党の報告によれば、4名のジュマが死亡、100棟超が焼失、負傷者は少なくとも80名に上りました。
また、ここで繰り返し観察されるパターンは、軍・警察・治安部隊による「不介入」が結果として暴力を許容してしまう現象です。暴動を静観することで、ベンガル人入植者側の行動に“無言の後押し”が働く構図です。この"協力体制"は政変後も変化していないことを痛感しました。
もう一つの象徴的な事件は、「教科書をめぐる暴動事件」です。2025年1月、9年生と10年生の教科書から「先住民族」という表現の削除を巡って論争が沸き起こりました。その後、ベンガル人、ジュマのそれぞれの集団が首都ダッカで抗議運動を行ったことで衝突が発生し、9名のジュマが負傷しました。
一方で、希望がないわけではありません。例えば、9月の事件を起点に若者の運動プラットフォームが立ち上がりました。「Anti Conflict & Discrimination Hill Student Movement」と呼ばれるプラットフォームは、上意下達の組織でもなければ、いずれの政党にも依存しない新しいタイプの運動です。また、2025年1月にはチッタゴン丘陵問題省が和平協定監視委員会を再結成しました。暫定政権の外務顧問がトップに就任し、少数民族政党であるPCJSS党首のショントゥ・ラルマ氏など3名で構成されています。和平協定実施のモニタリングや、各関係機関の調整、実行に関する政府への提言、難民・国内避難民の帰還やリハビリを役割としています。
ここまで見てきた通り、チッタゴン丘陵地帯における幾つかの動きはみられるものの、根本的な政治構造は変わっていないことがわかりました。確かに政変直後はチッタゴン丘陵地帯にも民主化の空気感があり、言論の自由を含めた公共圏の余白は一時的に広がりました。しかし、和平協定の履行・土地問題・治安といった構造をつかさどる部分は依然として変化がありません。また、暫定政権の役割もあくまで治安回復と総選挙の実施にあるため、チッタゴン丘陵地帯の根本的な課題解決はスコープ外です。
こうした難しい環境下だからこそ、チッタゴン丘陵地帯にはこれまでにない平和のシナリオが求められています。そのためには、長年の抑圧によって顕在化したジュマ内部の分裂を止め、再び連帯することが重要です。当初は同じ平和を目指して協力していた人々は、やがて思想や利害の違いにより分断され、現在では少なくとも6つの政治勢力に分かれています。その結果、暴力の応酬が繰り広げられ、ジュマ社会は弱体化し、国際社会との協力機会も減少しています。
今回の学びの旅は、こうした背景と願いのもとに作り上げられました。参加者は政党で活動するメンバーや研究者、教員、学生など、多様なバックグラウンドを持っています。立場が違えば見えている世界も異なり、意見も多様です。そうした若者たちがプログラムを通して集い、互いの意見を共有することは、分断を超える最初のきっかけになるはずです。日常では交わる機会が限られる若手リーダーたちが繋がり、互いを理解し合うことで、共に一歩を踏み出すことを願っています。
クラウドファンディングも残り3日となりました。ぜひ最後の一押しを応援してくださるととても心強いです。どうぞよろしくお願いいたします。
ジュマ・ネット=稲川
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