祈りと静けさに触れる
神田明神と妙心寺退蔵院で学んだ、日本の宗教文化
今回の日本短期留学では、日本の宗教文化を単に知識として学ぶのではなく、実際の場所に身を置き、作法を教わり、その空間に流れる時間や空気を感じることを大切にしてきました。
7月30日には東京の神田明神で神道文化を、京都研修では妙心寺退蔵院に宿泊し、禅の文化を体験しました。
神道と仏教という異なる伝統に触れた二つの経験は、生徒たちにとって、日本人の精神性や生活の中にある祈りについて考える、大変貴重な学びとなりました。
神田明神での特別な文化交流プログラム
7月30日、私たちは神田明神を訪問しました。
この日は、通常の境内見学だけではなく、私たちのために大変充実した文化交流プログラムをご用意いただきました。まず、神田明神や神道について説明を伺い、日本の人々が神社をどのように捉え、どのような思いで祈りを捧げているのかを学びました。

神道は、自然や地域、祖先、人々の暮らしとのつながりの中で受け継がれてきたものです。生徒たちは、参拝の作法や境内の建物について説明を聞きながら、日本の宗教が日常生活や地域社会と深く結びついていることを知りました。
続いて、日本の伝統音楽である雅楽について学び、実際の演奏を聴かせていただきました。楽器の音色や演奏者の装束を間近で見ながら、千年以上にわたって受け継がれてきた文化が、現在も生きた形で守られていることを実感しました。演奏後には、雅楽で使用される楽器にも触れさせていただき、生徒たちは興味深そうに構造や音の出し方を確かめていました。

また、一人ひとりが絵馬に願いを書き、境内に奉納しました。日本語で願いを書く生徒、ウクライナ語や英語で書く生徒など、それぞれが今の自分にとって大切な思いを言葉にしました。
そして、通常の自由参拝では立ち入ることのできない御神殿内に上がらせていただき、全員で昇殿参拝を体験しました。
整えられた空間の中で姿勢を正し、神職の方々に導いていただきながら静かに祈る時間は、境内を外から見学するだけでは得られない、特別な経験となりました。
最後には境内の展示も案内していただき、神田明神の歴史や、地域の人々との関わりについて学びました。
さらに、今回の訪問に合わせてご用意くださった、ひまわりがあしらわれた美しいお守りを一人ひとりにいただきました。ひまわりはウクライナを象徴する花でもあります。日本とウクライナへの思いが込められたお守りを手にした生徒たちは、とても嬉しそうな表情を見せていました。

日本が自国の歴史や文化をどのように守り、次の世代へ受け継ぎ、さらに外国から来た人にも理解できるよう、丁寧な「体験」として伝えているのか。その準備、説明、場の整え方、そして迎え入れてくださる方々の姿勢そのものが、大きな学びとなりました。
生徒たちには、日本文化を知ることと同時に、「では、自分たちの故郷リヴィウやウクライナの文化を、将来どのように世界へ伝えられるだろうか」と考えてほしいという思いがありました。これは、本プログラムを企画した当初から大切にしてきた学習目標の一つです。
妙心寺退蔵院で過ごした、禅と向き合う時間
京都では、妙心寺退蔵院に宿泊させていただきました。
歴史と記憶が積み重なった寺院に宿泊し、その場所で朝を迎えるという経験は、それだけでも生徒たちにとって特別なものでした。
早朝には、朝のお勤めに参加しました。

まだ街が静かな時間に起き、姿勢を整え、読経の声に耳を傾ける。普段の生活とはまったく異なる一日の始まりを経験しました。
その後は、寺院のお掃除にも参加しました。禅において、掃除は単に建物をきれいにするためだけの作業ではなく、自分自身の姿勢や心を整える修行の一つでもあります。
自分たちが泊まった場所を自分たちの手で整え、周囲の人と動きを合わせながら黙々と作業する時間を通して、生徒たちは日本文化における「整えること」の意味を身体で感じ取っていたように思います。
座禅体験では、姿勢と呼吸を整え、浮かんでくる考えにとらわれず、静かに今この瞬間へ意識を戻す練習をしました。

戦争が続くウクライナでは、生徒たちは日常的に空襲警報や不安なニュースにさらされています。常に何かを心配し、考え続けなければならない環境の中で、ほんの短い時間でも外から入ってくる情報や頭の中の考えから距離を置き、自分の呼吸や身体に意識を向ける経験は、現在の彼らにとって大きな意味を持つものだったと思います。
座禅を終えた生徒たちからは、満足した表情や、「思っていたより難しかった」「静かに座ることで気持ちが落ち着いた」といった感想が聞かれました。
禅を説明する文章を読むだけではなく、寺院に泊まり、朝のお勤めに参加し、掃除をし、実際に座る。
その一連の経験を通じて、生徒たちは禅を「知識」ではなく、身体の感覚として理解することができました。
日本を学び、ウクライナを見つめ直す
神田明神で体験した、地域や暮らしと結びついた祈り。
妙心寺退蔵院で体験した、静かに自分自身と向き合う時間。
その形は異なりますが、どちらの場所にも、長い歴史の中で受け継がれてきた文化を守り、次の世代や外国から来た人々へ丁寧に伝えようとする姿勢がありました。
今回のプログラムの目的は、生徒たちに「日本は素晴らしい」と感じてもらうことだけではありません。
日本で見たものを手がかりに、自分たちの国について考えること。
ウクライナにも、宗教、音楽、歴史的な建築、伝統工芸、地域の暮らしなど、世界へ伝えるべき豊かな文化があります。特に、生徒たちの暮らすリヴィウは、歴史ある教会や街並み、芸術や音楽が息づく、ウクライナを代表する文化都市です。
今回、日本で文化がどのように守られ、体験として伝えられているのかを見た生徒たちが、いつか今度はウクライナで日本の方々を迎え、自分たちの文化や歴史を誇りを持って伝える側になってくれることを願っています。
心より感謝申し上げます
今回、このような大変貴重な機会を設け、温かく迎えてくださった、清水祥彦宮司様、菊池重光禰宜をはじめ、神職関係者の皆様、そして梶並珠美様に、心より御礼申し上げます。生徒たち一人ひとりにとって、日本の文化と精神性に深く触れる、一生の記憶に残る経験となりました。
また、京都で私たちを温かく迎え、寺院での生活や禅の文化を体験する機会をくださった妙心寺退蔵院の松山大耕様、関係者の皆様にも、深く御礼申し上げます。これほど丁寧に迎え入れていただき、普段は得ることのできない学びの機会をいただけたことは、生徒たちにとって一生心に残る経験です。
そして、このような学びを実現できたのは、クラウドファンディングを通じて応援してくださっている皆様のお力があったからこそです。
日本で感じた祈り、静けさ、人の温かさが、生徒たちの未来と、これからの日本とウクライナのつながりの中で生き続けるよう、帰国後の学びと発信にもつなげてまいります。

