宮里大八国際交流基金のインドネシア・バリ島海外派遣。
いよいよ10日目、最終日を迎えました。
本来なら今日は、バリ島を出発してシンガポールを経由し、沖縄へ戻る途中にいるはずでした。
しかし、台風の影響でシンガポールから那覇へ向かう飛行機がキャンセル。
予定を変更し、もう一泊、バリ島に滞在することになりました。
最後の最後まで予定どおりにはいかない。
でも振り返ってみると、それもまた、今回の海外派遣を象徴しているように感じます。
海外へ出るということは、知らない文化や人に出会うことだけではありません。
思いどおりにならない出来事に直面し、その状況を受け止め、自分たちで次の行動を考える。
それもまた、大切な経験です。
ホストファミリーとのお別れ
この日は、ホームステイでお世話になった家族とのお別れの日でもありました。
今回のホームステイでは、前半と後半で環境が大きく変わりました。
前半は、日本語を話すことのできるホストファミリーや、普段から日本人観光客を受け入れているバリ倶楽部の皆さんに囲まれた生活。
一方、後半は日本語がほとんど通じない、よりローカルなバリ島の家庭に入りました。
観光客として訪れるのではありません。
家族と同じ家で暮らし、一緒に食卓を囲み、その家庭の日常の中に入っていく。
最初は、やはり緊張もあったようです。
「ちゃんとコミュニケーションを取れるのだろうか」
そんな不安もあったと思います。
でも、実際に生活してみると、少しの英語とジェスチャー、そして相手が何を伝えようとしているのかを考えることで、少しずつ意思疎通ができるようになりました。
本人から出てきた言葉が印象に残っています。
「多分、英語はめっちゃ間違ってるけど、ちゃんと通じた」
私は、それでいいと思います。
英語を完璧に話すことだけが、国際交流ではありません。
相手の表情を見る。
声のトーンを聞く。
ジェスチャーを使う。
そして、
「この人は何を伝えようとしているんだろう」
と一生懸命考える。
相手も同じように、自分のことを理解しようとしてくれる。
それこそが、コミュニケーションなのだと思います。
「人の優しさが一番」
10日間を振り返りながら、もう一人から出てきたのは、
「人の優しさが一番」
という言葉でした。
この言葉も、今回の旅を象徴しているように感じます。
ホームステイ中は、基本的にホストファミリーの家で食事をしていました。
お母さんが作ってくれるローカルな料理を、家族と一緒に食べる。
用意していたお小遣いも、ほとんど使う機会がなかったようです。
「困ったことはなかった?」
と聞いてみると、なかなか出てきません。
ようやく出てきたのが、
「食べるのが大変だった」
という話。
食事が合わなかったという意味ではありません。
むしろ逆です。
ホストファミリーが、とにかくたくさん食べさせてくれたようです。
「もっと食べなさい」
「これも食べなさい」
沖縄でいう「カメーカメー」に近いものを感じます。
沖縄とバリ島。
遠く離れた島ですが、人を迎える温かさには、どこか似ているところがあるのかもしれません。
「ホームステイ先」から「世界の家族」へ
一緒に生活する中で、家族との距離も少しずつ縮まっていきました。
言葉が完全に分からなくても、
「今日食べなさいね」
といったニュアンスが自然と伝わる。
同世代の家族とは連絡先も交換しました。
沖縄に戻ってからも連絡することができます。
車の中で、そんな話をしながら私は、
「世界の友達だね」
と話しました。
海外派遣の成果は、英単語をいくつ覚えたかだけでは測れません。
「また会いたい人が海外にいる」
「自分を家族のように迎えてくれた人が、別の国にいる」
その経験だけでも、世界との距離は一気に近くなると思います。
「外国」が、地図の向こう側にある知らない場所ではなくなるからです。
「お客さん」ではなく、仕事を経験する
今回の海外派遣には、もう一つ大きな目的がありました。
観光の仕事を実際に経験することです。
バリ倶楽部のツアーでは、マングローブ、SUP、シュノーケリング、マンタツアーなどを経験しました。
ただ、最初の頃の2人を見ていて、私は少し気になっていました。
楽しんではいる。
でも、それでは「お客さん」とあまり変わらないのではないか。
そこで途中からは、より仕事として参加してもらうことにしました。
ゲストが到着したら挨拶をする。
ツアーの準備をする。
お客様を迎える。
終了後の片付けをする。
食事のサービスを手伝う。
楽しいだけではなく、少し緊張する場面にも立ってもらいました。
観光は、誰かが楽しむ場所の裏側で、多くの人が安全を確認し、準備をし、お客様を迎えることで成り立っています。
その一端を、2人には自分たちの身体で感じてもらえたと思います。
マンタ、ウミガメ、そしてバリ島の海
職場体験の中でも、マンタツアーは強烈な経験になりました。
波のある海。
冷たい海水。
決して楽なコンディションではありませんでした。
それでも海に入り、マンタを見ることができました。
別のシュノーケリングポイントでは、熱帯の海の世界を楽しみ、ウミガメにも遭遇しました。
自然を相手にする観光では、人間の予定どおりにすべてが進むわけではありません。
海の状態も、天候も、生き物との出会いも、自分たちではコントロールできない。
そのことも含めて、自然を活用した観光について考える機会になったと思います。
「何が一番楽しかった?」
最後に2人へ聞いてみました。
「何が一番楽しかった?」
マンタ。
シュノーケリング。
観光地。
いろいろな答えがあってもおかしくありません。
でも、話を聞いていくと、強く残っていたのはホストファミリーと過ごした時間でした。
一緒にご飯を食べる。
家族の日常の中に入る。
知らない言葉を聞きながら、何を言っているのか考える。
笑う。
食べる。
出かける。
そんな「普通の時間」です。
観光地を巡るだけでは経験できない時間。
それこそが、ホームステイの価値なのだと思います。
次は、どんな子に来てほしい?
最後の食事では、もう一つ質問をしました。
「このプログラムを、これからも続けた方がいいと思う?」
「次は、どんな子に参加してほしい?」
海外や国際的な仕事に興味がある子。
将来、海外で働いてみたいと思っている子。
そんな意見が出ました。
でも、話をしていくうちに、私はこれまで派遣してきた子どもたちのことも思い出しました。
最初から、
「海外へ行きたい!」
と思っていた子ばかりではありません。
家族が背中を押した子。
学校の先生が、
「この子に行ってほしい」
と紹介してくれた子。
中には、自分から積極的に海外へ行こうとは考えていなかった子もいました。
それでも、バリ島へ来て10日間を過ごし、帰国した後、自分の将来について考え始めた子もいます。
だから、このプログラムには、
「行きたい子」
だけではなく、
「この子に、この世界を見せてあげたい」
と思ってくれる大人がいる子にも、扉を開いておく必要があるのかもしれません。
経済的な理由で、世界への一歩を諦めないために
宮里大八国際交流基金を続けている理由の一つがあります。
家庭の経済的な事情などによって、海外へ挑戦する機会を得にくい子どもたちにも、世界へ一歩踏み出してほしい。
海外旅行だけであれば、お金を出して行くこともできます。
しかし今回のように、現地の家庭に入り、家族の一員として暮らし、観光の現場で仕事を経験し、現地の人たちと関係をつくる。
これは、お金を払うだけでは簡単に手に入らない経験です。
だからこそ、家庭の状況によって可能性を諦めることのないように、これからも機会をつくっていきたいと思います。
この10日間は、まだ終わりではない
沖縄へ戻った後には、報告会を予定しています。
今度は2人自身が、この10日間を振り返ります。
何を経験したのか。
何を感じたのか。
バリ島と沖縄には、どんな違いがあったのか。
逆に、どんな共通点があったのか。
自分自身に、どんな変化があったのか。
そして、
「次に、どんな子にこの経験をしてほしいのか」
自分たちの言葉で伝えてもらいたいと思っています。
体験する。
振り返る。
自分の言葉にする。
そして、次のドリーマーへ渡していく。
そこまでが、今回の海外派遣だと思っています。
予定外に見ることになった、もう一つのバリ島
そして、本来なら今日は帰国するはずでした。
しかし、台風の影響でシンガポールから那覇への飛行機がキャンセル。
バリ島でもう一泊することになりました。
最後の宿泊先は、クタビーチのすぐ近くにあるリゾートホテルです。
これまで経験してきたホームステイとは、まったく違う環境です。
私は、これも2人にとって良い経験になったと思っています。
バリ島は、人々の生活や伝統文化が残る島であると同時に、世界中から観光客が訪れる国際的なリゾート地です。
ビーチ沿いにはリゾートホテルが立ち並び、ショッピングモールやショップ、レストランが集まり、世界中の旅行者を迎えています。
ホームステイを通して「暮らすバリ」を知る。
観光の仕事を通して「働くバリ」を知る。
そして最後に、クタの街を歩きながら「世界的観光地としてのバリ」を見る。
どれか一つだけではなく、そのすべてを見ることが、観光を学ぶことにつながると思っています。
予定外の延泊でしたが、結果として、バリ島のもう一つの顔を見る時間が生まれました。
本来なら、見ることのなかった夕日
夕方、クタビーチへ。
目の前には、バリ島の海へゆっくりと沈んでいく夕日がありました。
本来なら、この時間にはもうバリ島にはいなかったはずです。
飛行機が予定どおり飛んでいれば、見ることのなかった夕日です。
海外に出ると、予定どおりにいかないことがあります。
今回も、帰国便の欠航という大きな予定変更がありました。
でも、その予定外の出来事の先に、思いがけない景色が待っていることもあります。
それもまた、旅なのだと思います。
バリ島、最後のディナー
夜は、ビーチを見渡すことのできるショッピングモールへ。
バリ島での最後のディナーは、見晴らしの良い場所にある、バリ料理とベトナム料理を楽しめる創作レストランでいただきました。
2人でメニューを開き、料理を選び、スタッフとやり取りする。
そんな何気ない姿を見ながら、10日前のことを思い出していました。
沖縄を出発したときの2人と、今の2人。
本人たちはまだ気づいていないかもしれません。
でも、少しずつ、自分で考え、自分で伝え、人と関わっていく姿が増えてきたように感じます。
そして食事の最後。
ビーチの方から、突然、花火が打ち上がりました。
バリ島で過ごす、本当に最後の夜。
夜空に上がる花火を見ながら、私はなんだか、この10日間を頑張った2人を、バリ島がねぎらってくれているような気持ちになりました。
そして同時に、
「ここから、また新しいスタートだよ」
と、2人のこれからを祝福してくれているようにも感じました。
台風が来なければ、見ることのなかった夕日。
飛行機が欠航しなければ、見ることのなかった花火。
予定どおりにいかないからこそ、出会える景色がある。
それも、世界へ一歩踏み出したからこそ知ることのできたことなのかもしれません。
10日間で、人生のすべてが変わるわけではありません。
でも、この10日間が、いつか2人の人生のターニングポイントになることはあると思います。
数か月後。
数年後。
あるいは、もっと先。
何か新しいことに挑戦しようとしたときに、
「あのとき、バリ島へ行ったから」
と思い出す日が来るかもしれません。
Day10、最終日。
そう書くつもりでした。
でも、私たちはまだ沖縄に帰っていません。
明日、バリ島を出発し、シンガポールを経由して沖縄へ向かいます。
2人のバリ島での10日間の挑戦は、ここで一区切り。
でも、この経験から始まる2人の新しい挑戦は、これからです。
旅の終わりは、新しいスタートの始まり。
最後まで、この挑戦を支えてくださったすべての皆さま。
本当にありがとうございました。
そして、もう少しだけ。
私たちの旅は続きます。