広島大学体育会サッカー部と長崎大学サッカー部は、スポーツを通じて平和を発信する取り組み「Peace Match」を実施しています。被爆地である広島と長崎の大学生が、対等な立場で協力して立ち上げたイベントです。2024年に始まり、3回目となる2026年は、8月10日と11日に開催されます。原爆や戦争を直接経験していない世代の学生たちが、スポーツという共通言語を通じて「平和とは何か」を自分たちの言葉で考え、次の世代へと伝えていく取り組みです。企画に携わる広島大学体育会サッカー部4年生の筒井さんに、イベントに込められた思いを聞きました。
――「Peace Match」とはどのようなイベントですか?
広島大学サッカー部と長崎大学サッカー部、両大学の男子部員たちが、サッカーの試合と平和学習を行う2日間の取り組みです。2024年に単発企画として始まりましたが、初年度は広島で親善試合のみを開催しました。2025年は被爆80年の節目にあわせて内容を広げ、オリンピック2大会連続で金メダルを獲得した体操の内村航平さんによるトークセッションや、北京オリンピックに出場した渋井陽子さんによるスポーツクリニックなど著名なアスリートを招いた企画、文化系サークルの演舞なども実施しました。試合前には黙祷を行い、原爆の犠牲となった人々に思いを寄せたうえでキックオフします。開催地は、原則として広島と長崎を交互にする方針で、2026年は広島での開催となります。
――発足の経緯を教えてください
被爆者の高齢化が進むなか、平和をどのように伝えていくかが、これまで以上に問われています。原爆の実相を私たちが語り継いでも、被爆した方々と同じ重みを持って伝えることはできません。痛みを想像することはできても、その痛みを実際に感じることはできないからです。
世界に目を向ければ、今も各地で戦争や武力衝突が続いています。核兵器の使用が現実的な脅威として語られる状況も続いています。
こうした時代に生きる私たちは、本当に「戦後」を生きていると言えるのか。それとも、新たな「戦前」の入り口に立っているのか。そう問いかける必要があると感じました。
そこで、平和の象徴ともいえるスポーツを通じて、平和について考える輪を広げられないかと考え、Peace Matchを立ち上げました。
発足当時、広島大学を率いていた上泉監督は、警察官だった祖父を原爆で亡くしています。また、長崎大学の田中朴通監督も、祖母が被爆しています。祖母は現在も健在ですが、原爆について多くを語ることはないといいます。
これからの時代に生きる学生に、平和について自分自身の言葉で考えてほしい。そのなかでも、被爆地で学ぶ広島大学と長崎大学の学生だからこそ担える役割があると考えました。こうした思いから、被爆79年にあたる2024年にPeace Matchが始まりました。
「自分は被爆地で学んだ。その経験を踏まえ、自分にできることは何だろう」この問いにすぐに答えが出なくても、いつか自分なりの形で平和について考えるきっかけになればと願っています。
そうした願いが、Peace Matchには込められています。
Peace Matchで出会った人たちが、年に一度集まり、スポーツを通じて平和について考え、対話し、サッカーでその思いを表現します。そうした輪が少しずつ広がっていくことに、この取り組みの大きな意義があると考えています。

――2026年はどのような内容を予定していますか?
2026年は、8月10日に広島平和記念資料館で平和学習を行い、翌11日には広島大学の南グラウンドでメインマッチを実施する予定です。試合前には、広島大学サッカー部・長崎大学サッカー部の部員が「平和宣言」を行い、平和について考えていることや伝えたい思いを、それぞれの言葉で時間を、新たに設ける予定です。あわせて、地域の少年団を対象としたサッカークリニックも企画しており、子どもたちに両大学の取り組みを伝える機会にしたいと考えています。
――試合前の「平和宣言文」には、どのような意味を込めているのですか?
Peace Match全体を貫くテーマは、「言葉だけではない平和の継承」です。
宣言文をただ読み上げるのではなく、部員一人ひとりが自分の言葉で平和への思いを言語化する過程そのものに意味があると考えています。広島大学と長崎大学、それぞれの土地で育んできた平和に対する考え方を持ち寄り、ひとつの宣言として観客の前で発信することで、被爆地で学ぶ若い世代が、平和への思いを受け継ぎ、考え続けていることを伝えたいです。
――スポーツという手段だからこそ伝えられることは何ですか?
強く意識しているのは、2025年のPeace Matchに参加した際に得た実感です。「サッカーができていること、大げさに言えば生きていること自体が当たり前ではないと強く感じました。当たり前にできていることへの感謝を実感したことで、スポーツに打ち込む気持ちがより大きくなったんです」。この感覚を多くの人と共有し、それぞれが日常を見つめ直すきっかけをつくることに、イベントの意義があると考えています。勝ち負けを競うだけでなく、ピッチに立てること自体への感謝を分かち合えるのは、スポーツならではの力だと思います。広島大学では、全学生が「平和科目」を履修することになっており、そこで得た知識を、サッカーという共通言語を通じて子どもたちや地域に伝える機会にもしたいです。

――平和について発信するうえで、大学生だからこそ伝えられることはありますか?
小学生や中学生の頃に平和について学んでも、その意味を実感を伴って受け止めることは難しい場合もあるのではないか、、と考えています。大学生になり、それまでより多くの経験を積んだ今だからこそ、平和がなぜ大切なのかや、当たり前だと思っている日常のありがたさを、より深く感じられる部分があります。Peace Matchは、大学生になった今だからこそ得られた実感を、サッカークリニックなどを通じて次の世代へ伝える場にもなっています。原爆や戦争を直接経験した世代が高齢化していくなかで、原爆や戦争を直接経験した方から話を聞ける機会は、次第に限られてきています。
だからこそ、被爆地で学ぶ大学生自身が学んだことを自分の言葉で語り継ぐ役割を担う意味は大きいと考えています。
――長崎大学サッカー部とは、どのように連携しているのですか?
Peace Matchをきっかけに両大学の関係者で連絡用のグループを作り、企画内容や進め方をそこで相談しながら準備を進めています。2026年の準備は、2025年の開催直後から翌年も続けていきたいと話し合ったことから始まり、具体的な内容については、開催年の春頃から話し合いを進めました。「被爆地」という共通の立場から平和を発信するという方向性で大きな意見の相違はなく、長崎大学の田中監督からの助言も受けながら、両大学が対等な立場意見を出し合い、内容を固めていきました。大学や日頃の練習環境が異なる長崎大学の学生と、同じ「被爆地の大学生」という立場で協力できること自体に大きな意義を感じています。競技としては互いに切磋琢磨する相手であると同時に、平和を発信する仲間でもあるという関係性が、Peace Matchという取り組みを支えています。

――今後、Peace Matchをどのように広げていきたいですか?
将来的には、広島大学と長崎大学の他の部活動に加え、他大学にも参加の輪を広げたい考えている。参加する部活動や部員が増えれば、平和を伝えられる範囲や場所も自然と広がっていきます。長崎大学とのつながりも強くなり、より多くの人に取り組みを届けられるようになると思います。地域の少年団を対象にしたサッカークリニックのように、身近な形で交流の輪を少しずつ広げていくことも、その一歩です。被爆地である広島と長崎という2つの土地に根ざした学生発のイベントだからこそ、参加する人が増えることで、平和について考えるきっかけを、より多くの人に届けられると考えています。

――記事を読む大学生や、企業の方へメッセージをお願いします
学生が自分たちの言葉で平和について発信できる機会は、決して多くありません。こうしたイベントに関わることで、当たり前の日常への感謝を実感でき、部活動そのものへの向き合い方も変わっていくと思います。企業に向けては、学生が主体となって平和について考え、発信する活動に共感し、ご支援いただければ、活動の範囲をもっと広げられます。原爆や戦争を知らない世代が増えていくこれからの時代に、スポーツという身近な手段を通じて平和を語り継ぐこの取り組みが、少しずつでも根付いていってほしいと願っています。
企業様用のプランもご準備しております。
ぜひご支援の程、よろしくお願いいたします。
↓Peace Matchクラウドファンディング↓
https://for-good.net/project/1003971/support
【プロフィール】
広島大学体育会サッカー部
創部:1903年(明治36年)
所属リーグ:中国大学サッカーリーグ1部
長崎大学サッカー部
創部:1962年(昭和37年)
所属リーグ:九州大学サッカーリーグ3部