10月23日(金)の共創ワークショップ、問い⑥は鹿児島県・屋久島から届いた「島の定期航路をいかに守るか。地域主体で航路を支える新モデルとは?」です。
テーマオーナーは、一般社団法人屋久島観光協会 会長の荒木政孝さん。
屋久島と本土を結ぶ定期航路では、電源喪失によりフェリーが漂流する事態が発生しました。更新が必要なフェリーが運航を続けるなか、世界情勢の影響で船価は「かつてないほど跳ね上がっている」といいます。船の老朽化による故障や長期運休は、島民生活に深刻な影響を及ぼします。
事業規模は100億円近く。荒木さんはその大きさゆえの停滞をこう語っています。
この問題は、100億円近い金額になる規模の大きすぎる話であるためか、これで行こうというゴールや、なんとなくの方針すら出てこない
そしてもうひとつ、決定の構造を問題視しています。
自分たちの運命を握っている船……その全ての意思決定プロセスに「住民が関与していない」
屋久島観光協会は、島内各経済団体と連携したアンケート調査、運休がもたらす経済的損失の調査を実施し、区連会の協力により島民全員への署名用紙を全戸配布。9月議会に向けた住民署名活動を加速させています。
荒木さんが見据えるのは、こんな姿です。
隠岐諸島のような仕組みを学びながら、屋久島民自身がしっかりと出資し、経営にも意見を反映できるような新スキームが作れたら、日本全体の新しい交通インフラのスタンダードになれるのではないか
屋久島の「問い」https://ritokei.com/forum/shimakaigi2026_theme06_yakushima
航路は、平時の暮らしを支えるだけでなく、災害時には命綱になります。今回は防災・災害の視点から4本の記事をご紹介します。屋久島の議論は「船をどう維持するか」であると同時に、「船が止まったとき何が起きるか」という問いでもあるからです。
①【共創会議2025】「72時間をどう生き抜くか」

昨年10月8日に開催された「未来のシマ共創会議2025」の特別セッションでは、島々と民間企業のキーマンが「生き残れる島の防災と関係人口」をテーマに議論しました。
内閣官房防災庁設置準備室の大山璃久参事官補佐は、**「72時間をどう生き抜くか」**を離島における最大の課題と指摘。外部支援に頼らず、燃料・水・通信を自力で確保する仕組みが必須と述べました。
登壇した島々からは、より具体的な数字が挙がっています。
- 屋久島町の岩川健さん:10日程度の備蓄を推奨し、支援が1週間来ないことを前提に準備すべきと強調
- トカラ列島の久保源一郎村長:「島の自治を守り、島を守ること」が生き残れる島の条件と主張
- 奥尻島の今谷好志さん:スターリンク衛星通信を常設し、72時間の通信維持体制を整備
民間企業からも、LINEヤフー株式会社が1,600以上の自治体と災害協定を締結し、能登半島地震では20億円超の寄付金と35万点の物資を提供したことなどが報告されました。
リトケイ代表の鯨本あつこは、離島の「助け合い」文化を「支え合う関係」として企業・行政と協力していく必要性を指摘しています。
屋久島の議論に向けて:屋久島町からの登壇者が「支援が1週間来ないことを前提に」と語っていることは重要です。支援が来ないとは、つまり船が来ないということ。航路の維持は、平時のコスト議論であると同時に、非常時の生存条件でもあります。
▶ https://ritokei.com/pickup/shimakaigi2025_04
②【特集|島で守る命と健康】命と健康を守る島ののりもの

『季刊ritokei』43号の特集では、離島の医療を支える交通機関が紹介されています。
瀬戸内海巡回診療船「済生丸」は1962年から運航を開始し、予防医学を重視した巡回診療を実施。記事には、阪神・淡路大震災時に海路を使った災害救助活動に従事したことも記されています。
トカラ列島のレントゲン船は7島・約600人の住民を対象に、がん検診などを搭載車両で実施し、年1回全島を巡回。
長崎県・五島市では2023年1月からモバイルクリニックを導入。オンライン診療設備と医療機器を搭載し、地元タクシー会社が運行、看護師がサポートしています。
空からの手段もあります。奄美ドクターヘリはトカラ列島から奄美群島全域をカバーし、長崎医療センターのドクターヘリは有人離島数日本一の長崎県に対応。小笠原諸島では海上自衛隊のヘリや救難飛行艇が急患搬送に活躍していますが、硫黄島経由の小笠原諸島からの搬送には「9〜10時間を要する」と記載されています。
屋久島の議論に向けて:島の「のりもの」は、観光や通勤のためだけのものではありません。済生丸が震災時に災害救助へ回ったように、平時の航路は非常時の資源にもなります。屋久島の新スキームを設計するとき、この「二重の役割」をどう位置づけるか。住民が出資者になるという構想は、この視点と相性が良いかもしれません。
▶ https://ritokei.com/pickup/k43_12
③【八丈島】断水3週間、止まる島の経済

2025年10月の台風22号・23号により、東京都の離島・八丈島と青ヶ島が甚大な被害を受けました。
記事によれば、大規模な土砂災害により水源地が被災し、災害発生から3週間経った時点でも一部地域で断水が続いていました。最大瞬間風速50メートルを超す強風により工場が全壊・半壊し、停電・断水により飲食店や宿泊施設が営業停止状態に陥りました。
リトケイは、クラウドファンディングプラットフォーム「For Good」と連携し、11月2日に7つのプロジェクトを同時スタート。椎茸生産事業者、ラーメン店、明日葉工場、ジャージー牛牧場(40頭)、新規宿泊施設、サウナトラック、キッチンカー事業者が対象でした。別途、寄付控除対象の緊急支援募金も実施しています。
屋久島の議論に向けて:災害は、島の暮らしと同時に島の経済を止めます。屋久島観光協会が実施している「運休がもたらす経済的損失の調査」は、まさにこの構造を数字にする試みです。損失を可視化することが、航路への投資の根拠になりうるか。八丈島の事例は、その参考になります。
▶ https://ritokei.com/article/hottopics/35818
④【寄稿】「隔絶性」がもたらす復興の遅れ

日本島嶼学会参与の長嶋俊介さんによる寄稿では、島の災害の構造が整理されています。
長嶋さんは「島への理解を深める柱の一つに災害がある」と述べ、噴火、地震津波、台風、豪雨、干ばつなどへの対応が「持続可能性の基本ですらある」と指摘。そして「島の個性と事情に対する理解が進めば、災害対応の有効性・機能性・支援力が向上する」と強調しています。
とくに航路と関わるのが「狭小性」「隔絶性」による被害拡大の指摘です。宮城県・江島の場合、隔絶性により「ボランティアを呼ぶことも難しく、業者も後回しになる」という復興遅滞の課題が挙げられています。宮城県・出島では全島避難下で廃校が決定され、記事の時点で「学校が再開される予定はない」状況でした。
屋久島の議論に向けて:隔絶性は、船があってはじめて緩和されます。逆に言えば、航路が細れば島の隔絶性は増し、復興力も下がる。「航路を守る」ことの意味を、防災の文脈でどう語れるか。100億円という金額を前に議論が止まっているなら、その根拠を組み替える視点になるかもしれません。
▶ https://ritokei.com/voice/21071
10月23日、話してみたいこと
4本の記事から、ワークショップで深めたい論点が見えてきます。
- 航路の価値を、どう数え直すか:運賃収入だけでなく、運休による経済損失、急患搬送、災害時の生命線。すべて足したとき、100億円はどう見えるか
- 住民が出資者になると、何が変わるか:意思決定に住民が入る仕組みは、非常時の判断にどう効くか
- 「支援が1週間来ない」前提を、どこまで共有できているか:屋久島町の登壇者が語った備えは、島全体でどこまで実装されているか
- 平時と非常時をつなぐ設計はできるか:済生丸のように、平時の船が非常時に別の役割を担う仕組みを、屋久島の新スキームに組み込めるか
- 隠岐諸島のモデルから、何を学び、何を変えるか:屋久島の条件に合わせて、どこを設計し直す必要があるか
- 署名と調査の先に、何を置くか:住民の意思を可視化したあと、それをどんな意思決定の場につなげるか
荒木さんが待っているのは、自地域の交通インフラや航路を本気で守りたい離島住民・地域コーディネーター、インフラ知識だけでなく地域マネジメント・財務・経営に詳しいプロフェッショナル、隠岐諸島や佐渡島など他地域で定期交通インフラやDMOで先進的な挑戦をされている方、行政・民間・住民の現状を壊し、当事者として意思決定に加わる「地域自治モデルづくり」に興味のある方です。
九州産業大学准教授の行平真也さんなど、専門家も参画予定です。
👉 共創ワークショップの詳細・申し込み https://ritokei.com/campaign/co-creation
クラウドファンディングへのご支援をお願いします
「未来のシマ共創会議 2026」は今年で3回目。屋久島をはじめ6つの島々が「本気で解決したい問い」を携えて、10月23日に東京へ集まります。
この会議を実現するため、8月末までクラウドファンディングに挑戦しています。いただいた資金は、共創ワークショップの運営費、アーカイブ動画の制作費、成果をまとめた公式ブックの発行費などに使わせていただきます。1,500円からご支援いただけます。
船が止まれば、暮らしが止まります。災害時には、それが命に直結します。島民自身が船の未来に手をかけようとしている——その挑戦に、ぜひ力をお貸しください。
👉 クラウドファンディングページ https://for-good.net/project/1004074