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水俣病研究原点の出版

水俣病研究の原点『企業の責任』〈増補・新装版〉出版、「安全確保義務」の確立を!

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公開! 増補・新装版 あとがき

2025/2/12 15:30

クラウドファンディングを始めてひと月が過ぎました。現在目標額の40%を達成しております。皆様の暖かい応援に深く感謝いたします。

先週土曜日に熊本に行き、水俣病研究会の有馬澄雄氏と向井良人氏と最後の校正のチェックをして、印刷会社に渡しました。「企業の責任」の〈増補・新装版〉は、3月中旬には出来上がります。長い道のりでしたが、3月末までには、皆様の手にお届けできる予定です。本日は、有馬澄雄水俣病研究会代表の「あとがき」を公開いたします。お読みいただければ、幸いに存じます。

クウラウドファンディング もあとひと月足らず、もう一押しの応援よろしくお願いいたします。 


増補・新装版 あとがき

                       水俣病研究会 代表 有馬澄雄

『水俣病にたいする企業の責任-チッソの不法行為』は、チッソによるメチル 水銀中毒事件 ( いわゆる水俣病事件 ) を真正面から論じ、チッソの企業体質と加 害責任を明らかにした最初の本です。重要な古典的著作であることを、あらた めてしみじみと思います。多くの協力者を得て本書がリニューアルし、若い人 たちに手渡せることを嬉しく思います。

水俣病研究会は、第一次訴訟 (1969年6月〜1973年3月 ) を理論的に支えるた めに結成されました。患者家族の少数派が提起した裁判は、待ったなしの状況 で進行していました。そこへ、研究者やチッソの労働者など、職業や専門を異 にする市民が手弁当で参集し、患者家族が受けた受難の深さや切迫した想いを 全員が受け止めながら、チッソの責任を裁判でどう立証すべきか議論を深め研 究を重ねました。 本書を読まれると了解できると思いますが、1970年の初版刊行時、この事 件の主要課題は加害者チッソの責任をどう裁くかでした。チッソは操業にあた り除害措置を取らず環境を破壊し住民の生活と健康を奪いました。そして、以 後文句は言わせないと涙金で 「永久示談契約」 を結ばせ、政治力で被害者を押 さえ込みながら利潤追求に奔走しました。こうして、さまざまな汚染問題、果 ては大規模なメチル水銀中毒事件を引き起こしました。 そもそも〈水俣病〉の病因物質は、無処理で放流された工場廃水中のメチル水 銀です。それが地域住民にとって全く予想しない形で中毒死、あるいは重篤な 障害を引き起こしました。しかしチッソは、アセトアルデヒド生産工程でメチ ル水銀が生成されること、そして〈水俣病〉が起こることは全く予見できなかっ たので責任はない、と裁判で主張しました。当時の学説・判例では、予見可能 性がなければ責任を免れるという 「過失論」 が常識だったのです。 これに対し水俣病研究会では、メンバーが対等な立場で学際的な激論を重ねました。メチル水銀汚染による中毒 ( いわゆる水俣病 ) 事件の実態と、原因企業 チッソの加害責任をまとめ上げる作業は困難を極めましたが、スリリングとも いえました。そして、「安全性の考え方」 (武谷三男)をベースに、ドイツ法学 を基礎としたそれまでの学説・判例を覆す画期的な過失論 ( 安全確保義務論 ) を 展開し、企業体質にまで遡ってチッソの責任を明らかにしました。本書は裁判 の進行をにらみながら、きわめて短時日にまとめられました。この濃密で切迫 した研究会に参加した当時、一番若いメンバーであった私は議論の一部始終を 見聞きする機会を得て、その後の人生を決定づけられました。 1973年3月20日の熊本地裁判決は、「低額永久示談」というチッソの常套手 段を否定します。1959年の 「見舞金契約」 は患者家族の窮迫に乗じて結ばせ たものであり、公序良俗違反で無効としました。その上で、多種多様な化学毒 物を使用する企業は安全第一で操業を行い、無害の証明がない限り廃棄物を工 場外に出してはならないと原則を示し、住民に危害を加え環境を破壊してはな らないとして、チッソの責任を断罪し損害賠償を認めました。これは水俣病研 究会が提示した過失論 「安全確保義務」 を採用した判決で、操業には安全を確 保し、廃棄物は研究調査して無害にすべしと、利潤を優先して環境と生命を顧 みない企業活動に対して倫理規範を示すものでした。本書がなければ、この判 決は導き出せなかったでしょう。チッソは控訴せず、判決は確定しました。少 数派である訴訟派患者家族の突出した闘いがもたらしたこの判決は、原告以外 の患者家族にも適用されることになりました。

判決後、事件は紆余曲折を辿り、長期間にわたって不知火海全域に汚染を拡 大させたチッソおよび行政の責任と、その結果生じた膨大な中毒被害者をどう 救済するかに主要課題は移りました。そこでは、事件に対する医学と行政の対 応が問題でした。しかし実態調査をすべき責任を負う国・県の行政は、病因解 明に関わった医学者で構成される認定審査会を設置することで、必要な実態調 査を放棄しました。この認定制度は、1959年に見舞金契約を結ぶにあたりチ ッソの要請で設置されたことに始まります。企業の私的補償のために、公的機関で〈水俣病〉かどうかを審査するという奇妙な仕組みです。この認定審査では、 「主要症状」( 求心性視野狭窄、運動失調、構音障害、難聴、感覚障害など ) がそろった被害者しか〈水俣病〉と認めず、多くの中毒被害者の訴えは無視されました。 審査に関わった医学者は、認定制度のもとで厳格に審査することが 「医学診 断 」 で あると強弁してきました。しかし、症状や病変の組み合わせに基づいて〈水 俣病〉と診断する方法は、環境汚染によるメチル水銀曝露の中毒診断としては 異常で、外国の研究者・衛生担当者には理解できない対応です。こうして、メ チル水銀に曝露され中毒症状を持つ大多数の被害者は〈水俣病〉ではないとして 切り捨てられました。国はその被害実態と診断の矛盾を、二度の解決策 (1995年, 2005年 ) で 「ボーダーライン層」 として政治的に収拾してきました。その対象 となった人は7万人以上に上ります。これに対し、「厳密な審査」で認定され た〈水俣病〉患者は、熊本、鹿児島、新潟の3県を足しても3,000人ほどに過ぎ ません。

本書の初版刊行から半世紀以上が経過した現在も、この事件はいまだに先が 見えず混迷の中にあります。事件は補償と救済を中心に政治的・社会的な力学 で展開し、幾多の係争が続いています。また、汚染による生命・健康被害の全 貌はいまだに明らかにされず、将来に対する被害防止に関しても対応がお粗末 な現状です。係争が絶えない原因を考えると、不知火海全域にわたる汚染と中 毒被害の実態をどう把握するかという問題に行き着きます。汚染地域に暮らし 魚介類を食べ続けて健康に不安を抱く人たちの疑問に応え、中毒理解の基礎的 アプローチで以下に整理してみます。

第一に、汚染源工場におけるメチル水銀の副生と流出の実態。除害措置は取 ったのか。汚染源工場の稼働停止後、海域に流され蓄積・残留した水銀化合 物の挙動と汚染魚介類の動き。どう対処されたか。汚染の期間と範囲および 汚染メカニズムの追跡。

第二に、漁業の実態・推移と魚介類の販路 ( 行商ルートを含む )、魚食の実態。

これらの実態に基づく汚染範囲の割り出しと、メチル水銀に曝露された全住 民の把握。

第三に、汚染地区住民が訴える自覚症状の把握 ( 汚染のない一般住民のそれと 比較した特徴 )。

第四に、医師の診察による医科学的に客観的な所見の蓄積 ( 全身症状や一般症 状、神経症状、そして病理所見 )。胎児性中毒の実態把握。 第五に、魚食を通じて侵入したメチル水銀が体内でどのように動き脳を傷害 するか。人類が毒物に対し獲得してきたバリアーである脳血液関門・胎盤血 液関門を通過して脳細胞をどう破壊するのか ( 生体内挙動 )。個体差の影響。 第六に、環境中に放出された水銀化合物がどのように変化し ( メチル化など )、 地球上でどのように拡散・蓄積し循環するか ( 環境内動態 )。 それらの基礎研究の上に立って、 第七に、病状に応じた対処方法と治療、そして将来の汚染を防止するための 対策。

これらの実態を追求することが、被害者の犠牲に報いるせめてもの贖罪に違 いありません。しかし日本での研究は、メチル水銀中毒に関する海外の研究成 果を活かさず、上記第四レベルのうち重症者の臨床・病理の解析に終始してき ました。行政として対策を進める国・県およびそれを支える医学者は、疫学に 依らず個別的診断で把握した臨床症状あるいは病理所見の組み合わせによって 中毒診断ができるかのように振る舞ってきました。この国では、そうして拾い 上げた重症メチル水銀中毒被害者を〈水俣病〉と「認定」し、中毒被害者の大多 数を切り捨ててきたのです。 なぜこのような歪な事件処理が行われてきたかは、医学的、科学的、そして 法学的、政治学的に重要な解明課題ですが、明治以来進められてきた日本の近 代化政策とも関わる問題であり、まだ十分に究明されていません。係争がなぜ 起こり続けるのか、その本質に届く問いがまだ立てられていないと考えていま す。これらは、我々の前に課題として残っています。水俣病研究会は、日々新しい局面を迎える被害者の運動に寄り添いながらも独自に仕事を進めてきまし た。しかし、この事件の核心である行政と医学が果たした役割の解明は、ほと んど手つかずのまま残されています。水俣病研究会代表を長年つとめた富樫貞 夫は、50年余にわたる研究会活動で、この課題すなわち 「行政および医学の 責任」 を徹底的に究明できなかったことが心残りだと述懐しています。

この50年余の間に、水銀その他の化学物質による環境汚染は世界的に深刻 さを増し、また日本においては福島第一原発事故にも終わりが見えません。水 俣の事件では、汚染物質は環境中に放出されたのち、生物的・化学的・物理的 条件により地球上に拡散するとともに、生体に濃縮されることが明らかにされ ました。原子力発電所事故に対する東京電力の補償問題や汚染水の処理問題で は、こうした水俣の経験が全く活かされていないように見えます。このような 状況に照らしたとき、本書は〈水俣病〉事件のみならず、幅広く環境問題につい て、現在そして未来への責任と施策を問う先駆的な書であるといえます。 ほとんどのメンバーが〈水俣病〉事件についてゼロの知識から出発しながら、 短時日で達成された本書の濃密な内容は、現在でもまったく色あせず、知的刺 激を発し続けています。本書を手に取り読んでくだされば、読者の皆さんにも 納得していただけることと思います。 この〈増補・新装版〉の編集に携わったいま、私は、この事件の核心となる未 解明部分をすこしでも明らかにして、次世代へ引き継がなくてはと痛切に考え ています。本書の出版が、その一里塚となることを願ってやみません。

なお、凡例に記したように、この〈増補・新装版〉でも、被害者の方々のお名 前を初版本と同様に敢えて実名で掲載しました。水俣病研究会では何度も検討 を重ね、この決定に至りました。その当時、孤絶した状況で封じ込めと闘った 被害者一人一人の存在を重く受け止め、お名前を歴史から消さないことが必要 だと判断したからです。一人一人の存在の証であるお名前を残すことが、この 事件の真実を後世に伝えていくことになると考えます。

謝辞

この増補・新装版の制作には、次の方々の御協力を得ました。 阿南満昭 ( 水俣病研究会 )、

慶田勝彦、下田健太郎、飯島力 (以上、熊本大学大学院 人文社会科学研究部)、 塚本晋 (熊本大学大学院 文学研究科歴史学専攻修了)、

川崎義仁 (熊本大学大学院 文化学専攻歴史学研究コース) ここに記して御礼を申し上げます。

2025年2月


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3 「[完全版]石牟礼道子全詩集」(石風社 定価3,850円)1冊
*水俣病問題に深く関わった石牟礼道子氏の詩集「はにかみの国 石牟礼道子全詩集」(2009年 芸術選奨文部科学大臣賞)を大幅増補した「完全版」です。
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2 「水俣病事件と法(富樫貞夫著)」(石風社 定価5,500円)1冊
*水俣病訴訟に必携の法理論書
3 「[完全版]石牟礼道子全詩集」(石風社 定価3,850円)1冊
*水俣病問題に深く関わった石牟礼道子氏の詩集「はにかみの国 石牟礼道子全詩集」(2009年 芸術選奨文部科学大臣賞)を大幅増補した「完全版」です。
4 「医者、用水路を拓く」(中村哲 石風社 定価1,980)1冊
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「水俣病事件と法(富樫貞夫著)」(石風社 定価5,500円)1冊
2 「[完全版]石牟礼道子全詩集」(石風社  定価3,850円)1冊
*水俣病問題に深く関わった石牟礼道子氏の詩集「はにかみの国 石牟礼道子全詩集」(2009年 芸術選奨文部科学大臣賞)を大幅増補した「完全版」です。
3 「細部にやどる夢 私と西洋文学(渡辺京二)」(石風社 定価1、650円)1冊
*初期の水俣病闘争をディレクションした渡辺氏の文学論
4 「医者、用水路を拓く」(中村哲 定価1,980)1冊 
送料石風社負担

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