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アートと社会をつなぐ挑戦!ポートランドで学ぶソーシャル・アート実践




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2025/5/16 13:00
【授業レポート①】制度と移動をテーマにした架空のビザ申請プロジェクト

本日、日本からオンラインで「ART 598 Social Practice: Workshop」内で行われる「Student Time」に参加させていただきました。
この授業は学期末に開催される特別なもので、当初は日本の美大における講評のような場を想像していましたが、実際には、私がかつてイギリスの大学院で経験した「progression review」に近いものでした。
学生が制作途中の作品や実践、リサーチの方向性をクラスメイトや教員に共有し、フィードバックを受けながら、今後の展開へとつなげていく——
完成作品だけでなく、制作“過程”を見せ、対話の中で作品を育てていくこの姿勢に、改めて学びの豊かさを感じました。
🎭 出国の許可?架空のビザ申請プロジェクト
今回の発表では、6月6日、7日に開催されるソーシャル・プラクティスに特化したカンファレンス「Assembly」で展示予定の作品が取り上げられました。
発表者はインド・ニューデリー出身のソーシャル・プラクティス・アーティストで、急速な都市変化と階層的な緊張が交差するポスト自由化インドを背景に、日常の断片を通して個人と社会の接点を探る作品を制作しています。
彼女のプロジェクト《Permission to Leave(出国の許可)》は、いわゆる“入国ビザ”ではなく、“自国を離れるためのビザ”を申請するという逆転の発想から構成された風刺的なアート作品。架空のビザ申請書(application form)には「なぜここを離れたいのか」「どこへ向かいたいのか」「帰属とはなにか」「忠誠や証明とは何か」といった問いが含まれており、参加者は一つひとつに向き合いながら、自分の立場や経験、想像力と対話していきます。たとえば、申請時に提出する“帰属証明書類”として挙げられたのは、Costcoの会員証、ヨーグルトショップのロイヤルメンバー、猫の世話などで、制度の理不尽さやアイロニーを浮かび上がらせるユーモラスな問いが、参加者の想像力を強く刺激していました。
🧭 授業の風景と学びのかたち
授業は市内の公共施設「Portland Building」で実施され、アーティスト(学生)を囲むように通路に集まった参加者たちが、架空のビザ申請書を読み進めながら自由に意見を交わしていく形式で始まりました。
その後、椅子とテーブルが並ぶロビーのような空間に移動し、アーティストが蛇腹紙を配って、「旅の履歴を記録するタイムライン・ワーク」を実施。これまで訪れた場所、これから行きたい場所を記しながら、自身の移動体験を官僚的な制約から解放し、自由に想起・再構築するよう促されるワークショップとなりました。
ワーク終了後、アーティストから「これはあなたの旅の履歴であり、これからパスポートのカバーを作成してほしい」との説明があり、以下のようなユニークな質問が記されたカードが配布されました:
- been a traveler since?(いつから旅人ですか?)
- what traces do you leave behind?(旅の痕跡として何を残しますか?)
- how will we know it’s you when you arrive?(あなたがそこに到着したと、どうすればわかりますか?)
参加者はこれらの問いに答え、先ほどのタイムライン用紙と組み合わせることで、個々の旅を象徴する“想像上のパスポート”を完成させました。
これは、行政や国境を前提とした移動の記録ではなく、個人の記憶や視点を軸にした“旅の再定義”として、とても詩的で力強いプロセスでした。
💬 対話とフィードバックの時間
2つのワークを終えた後、その場にいた学生や教員からのフィードバックの時間が設けられ、アーティストは作品や問いかけに対する率直な意見や感想を一つひとつ受け取っていました。
床に寝転んだり、ハンバーガーを頬張ったり、飲み物を片手に語り合ったりと、いかにもアメリカらしい、オープンで柔らかな学びの光景。けれどそのリラックスした雰囲気の中には、鋭い視点や深い洞察、言語化の力、そして相互の信頼が確かに存在していました。
姿勢や態度ではなく、“どう在るか”が問われる場。
こうした「個」を尊重する空気と、信頼をベースにした開かれた対話の場は、日本の教育現場においても必要なことだと感じます。場面に応じた柔軟な空間づくりや、もっと自由な対話の機会を増やすことの重要性を、改めて考えさせられました。
今回の授業で得たフィードバックをもとに、このプロジェクトがどのように発展し、展示空間でどのように立ち上がっていくのか——「Assembly」で実際の作品を拝見するのが今からとても楽しみです。
また、レポートも追ってお届けします。
引き続き、応援をどうぞよろしくお願いいたします!
渡辺 望
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