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2025/5/22 10:40
【授業レポート③】文化と感情を縫い合わせる:刺繍とピニャータをめぐるふたつの実践

こんにちは、渡辺望です。
2回目の授業の様子をお届けします。
🧵 第1部:刺繍をめぐる文化と記憶のつながり
前半は、パレスチナの伝統刺繍「タトリーズ(Tatreez)」をめぐる文化的実践に触れるため、The SWANA Rose Culture + Community Centerを訪問。今回は撮影が控えられていたため、現地で共有された印刷物や、実際に参加された方から伺ったお話をもとにまとめています。
会場には刺繍に関する小冊子や地域にまつわる情報資料が並び、刺繍という行為が、家族や土地の記憶と深く結びついていること、また縫うことそのものが、人とのつながりを育む手段になっていることが紹介されていました。
実際に参加された方が「印象的だった」と語っていたのが、アーティストのMillaさんによる「フォークアート」と「ファインアート」の違いについての話でした。
フォークアートとは、暮らしの中に根ざし、実際に「使える」実用品としての側面を持った表現であり、地域の文化や生活と強く結びついています。一方で、ファインアートは芸術的・美術的価値として制度化され、美術館やギャラリーで評価される「高尚なもの」として位置づけられがちです。
彼女は、自らを「フォークアーティスト」と呼び、フォークアートを「使えるアート(useful art)」、ファインアートを「使えないアート」と表現していました。そして、「どちらに価値があるとされるか」は社会的な文脈によって決められているのではないかという問いが提示されていました。
また、地域に根ざした刺繍や手仕事が、外部の視点から“再発見”され、異なる価値観で評価されていく構造にも触れられており、それは日本における民芸やアイヌ文化などの扱われ方とも重なります。本来は暮らしの中にあった実践が、どこで、誰の視点で再定義されるのかという問いにつながるお話でした。
建物内の空間には、多様なルーツをもつ人々の表現や情報が集まり、文化をめぐる対話や再解釈の場としての力強さが感じられました。この時間は、アートの価値や評価がどのように社会的に構築されているのかを問い直す機会であり、ソーシャル・プラクティスにおける「日常の中の表現」をめぐる眼差しとも深く重なっていたように思います。
🎉 第2部:KSMoCAでのワークショップ「Piñata Panic」
後半は、KSMoCA(King School Museum of Contemporary Art)に移動し、アーティスト(学生)によるファシリテーション型のワークショップ「Piñata Panic」が行われました。
📌 ピニャータ(piñata)とは?
ピニャータ(piñata)は、中南米をはじめとするラテン文化圏で親しまれている伝統的な遊びで、誕生日会や祝祭の場でよく用いられます。紙や布で作られた空洞のオブジェの中にキャンディーや小物を詰め、棒で叩いて壊すことで中身を取り出すというものです。
子どもたちの遊びとして定着していますが、「何かを壊すことで中から新しいものが現れる」という構造は、感情の発散、再生、変化の象徴として捉えられることもあります。
💡 ワークの導入と背景
冒頭では、アーティスト(学生)がこのワークを構想するに至った背景や個人的な動機について語りました。自身にとって「家のように感じるもの」や祖母との記憶、制作のルーツが紹介され、それらは現在進行中のプロジェクト——それぞれの曽祖母の言語を象徴するドレスを制作する試み——や、今回のモチーフであるピニャータとも深く結びついているとのことでした。
ピニャータを叩き壊すときに感じた子ども時代の高揚感や解放感、“壊すことで何かが現れる”という経験が、このワークの原点になっているそうです。
また、文化的背景として、ピニャータの起源についても触れられ、「どこから来たのか正確には分からないが、多くの文化に存在している」としつつ、中国からスペインを経てラテンアメリカに伝わったという説や、文化が旅をしながら変容する過程が紹介されました。ピニャータが“旅する文化の象徴”として提示されていたことも印象的でした。
導入では、参加者のひとりに“電話をかけるふり”をしてもらい、アーティスト(学生)がスマホでその電話を“受けるふり”をするというユーモアのある演出から始まりました。「ピニャータのご注文ありがとうございます。本日ご用意しているのは、“別れのピニャータ”、“喜びのピニャータ”、“感情爆発のピニャータ”、“元恋人との破局のピニャータ”など、多数取り揃えております」と、カスタマーサポート風の語り口で語りかけ、場の空気を和ませていました。最後には「オリジナルピニャータのカスタム注文も可能です」と案内し、参加者が自分自身の今の感情や状態を象徴する“個人のピニャータ”をデザインするワークへと進みました。
✍️ ワークショップ:“自分だけのピニャータ”をデザインする
ワークショップでは、参加者に2枚の紙が配られ、ひとつにはピニャータの外見(形・色・質感など)を、もう一方には中に詰めたいものを描くワークが行われました。
参加者は思い思いの方法で制作しながら、自分の内面と向き合う時間を過ごしていました。制作後は、希望者が自席から自分の描いたものについて紹介する自由な共有の時間が設けられました。
以下にいくつかの実際の作品例をご紹介します。
- 作例1:外側はサンドバッグ(パンチングバッグ)の形状。中には「無料の食べ物」「安全で健康的な暮らし」「悪意のない漫画・映画」「音楽を楽しむこと」「恐れのない人生」など、自由で安心な日常への願いが詰め込まれていました。
- 作例2:外側は「∴(therefore)」の記号が爆発したような象徴的な形。作者にとって馴染み深い記号をモチーフにしており、内側は「クラゲのように舞う映像的なイメージ」など、視覚的で幻想的な要素が組み込まれていました
- 作例3:外側はくしゃくしゃに丸めた紙のボールのような形。ストレスと期待が入り混じった状態を反映し、長いまつ毛と口髭をもつ男性の顔が描かれていました。中には「猫」「1リットルの水」「祖母の裏庭にあったJujubee(ナツメ)の木」「キャンディー」などが詰められ、個人の記憶や欲求が表現されていました。
💬 フィードバックと広がる問い
フィードバックの時間には、参加者からさまざまな視点や問いが寄せられました。
「このピニャータに“使い方”があったらどうか?」というアイデアでは、 「怒りのピニャータなら10回強く叩く」「平和のピニャータなら抱きしめて壊す」といった“使用説明書”のような発想が笑いと共感を呼びました。
また、形状に関するフィードバックとしては、「紙にあらかじめ展開図のようなレイアウトがあれば、折って立体的なピニャータを作ることも可能ではないか」といった提案もありました。ブック型のピニャータや、折り紙のように組み立てられる3Dバージョン、あるいは段ボール素材で構造化する案なども挙がり、ピニャータの造形をさらに拡張する可能性が示唆されていました。
こうした技術的・構造的な視点からの意見は、「形状」「使用」「中身」といった各要素が有機的に結びついた表現としてのピニャータを捉え直すきっかけにもなっていたように思います。
今回の2つのプログラムは、いずれも「日常に根ざした表現」がどのように個人や社会と関係し、共有されていくかを考える貴重な機会となりました。手を動かしながら、記憶や文化、感情と向き合うという体験を通じて、アートが持つ多様な可能性に改めて触れることができました。
次回は、5/22(日本時間5/23)です。
今回もアーティスト(学生)による「student time」となり、KSMoCAにて、Assemblyで発表を予定している作品の実践的な試みが行われるとのことです。作品は“Monument Speed Dating”と題され、対面での体験を前提としているためオンラインでは参加が難しい形式ですが、どのような展開がなされるのか、遠隔から見守りたいと思います。
引き続き、学びと気づきを丁寧に記録し、現地とのつながりを深めていきたいと思います。
渡辺望
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