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2025/5/23 17:30
【授業レポート⑤】Monument Speed Dating:関係性をめぐる想像的対話の場

こんにちは、渡辺望です。
5月22日(木)(日本時間:5/23)に行われた「Student Time」は、アーティスト(学生)による実践の共有として、少しユニークなテーマで展開されました。
前日には、こんな案内が届いていました。
“You and your crush(es) are warmly invited to join me for my student time this Thursday, 2pm at KSMOCA. We will be trying out a version of monument speed dating which I am preparing for Assembly.”
「恋をしている人と一緒に来てね」というジョーク混じりの呼びかけとともに、Monument(記念碑)をテーマにしたSpeed Dating形式のアクティビティが予告されており、どんな展開になるのか楽しみに当日を迎えました。
💘 “Crush”から始まるチェックイン
当日は、まず参加者全員が「自分のcrush(クラッシュ)」について話すチェックインからスタートしました。“Crush”とは、英語圏で一目惚れや一方的なときめきを意味し、相手を深く知らずとも惹かれてしまう感情を指します。
俳優やキャラクター、街、作品、時には抽象的な概念まで、多様な「crush」が紹介され、笑いや共感が自然と生まれていました。この導入は、参加者同士の心理的距離を縮めるとともに、後の対話に向けて場をあたためる役割を果たしていたように感じます。
🔄 Speed Dating形式での対話と創作
続いて行われたのが「Speed Dating」形式の対話セッションです。参加者は2人1組のペアとなり、以下のような質問カードを使って10分間の対話を行いました:
- What’s something you fantasize about doing in a public space?
- What do you wish there was more of in public spaces?
- What are some of your favorite monuments?
このプロセスは、単なる情報交換ではなく、相手の記憶や感性に耳を傾けることで「その人のためのモニュメント」を想像する準備でもありました。
対話の後は、それぞれがペア相手のためのモニュメントを紙やコラージュ素材でデザイン。静かな集中が会場を包み、自分とは異なる人生や視点を「かたち」にしていく時間が流れました。この一連のプロセスを2回繰り返し、異なる相手との関係性を複層的に体験できる構成となっていました。
🗣️ モニュメントと公共性をめぐる対話
制作後には、全員での共有とフィードバックが行われました。話題は自然と「モニュメントとは何か?」「公共性とはどう担保されるのか?」といった本質的な問いに広がっていきました。
アメリカではここ数年、銅像や記念碑が人種差別や植民地主義の象徴として見直され、撤去される動きが続いています。とくにコロナ禍以降、社会的な記憶や公共空間の在り方が大きく問い直されています。
そうした背景を踏まえ、本授業では公共的な存在であるはずのモニュメントを、親密な対話と想像力によって再構成するという試みが行われていたように思います。
つまり、政治的・歴史的に重いトピックを、“クラッシュ”という軽やかな導入から始め、親密で私的な対話を通して個々の経験や記憶に焦点をあてていくという構成は、参加者にとってモニュメントという概念をより身近に捉え直すための枠組みとして機能していたように感じました。
💡 参加者の声と改善提案
授業の最後には、参加者からの率直なフィードバックが共有されました:
- 「会話にもっと時間が欲しかった」
- 「ひとつの大きな共同モニュメントにまとめても面白そう」
- 「粘土など、屋外展示に耐える素材も試したい」
- 「展示や記録の方法をもっと工夫できるのでは」
「アーカイブ」に関しては、対話の内容や場の空気をどう残すかという問いに対し、「環境音を録音して“音のモニュメント”として記録する」といったアイデアも出されていました。
また、Speed Dating形式の制作構成として、各参加者は複数(今回は2名)の相手から“自分のためのモニュメント”を贈られるかたちになっていました。
その終盤、アーティスト(学生)から仮の提案として、「もしこの中からひとつ、自分が“資金提供(funding)”するとしたらどれか?」というシナリオが投げかけられました。ハート型のリボンも用意されており、この仕掛けを実施するか否かを、その場で参加者と相談するかたちが取られました。
この提案は、公共芸術における評価や予算配分の構造を想起させるもので、以下のような多角的な議論が展開されました:
- 「すべてのモニュメントに価値があるのに、なぜ選ばなければならないのか?」という違和感
- 「制度の再現になってしまうことで、関係性の平等性が揺らぐのではないか」
- 「むしろ、その違和感こそが問題提起として機能するのでは」
最終的には、「どれかを選ぶ必要はないのでは」という意見が多く共有され、リボンによる選定は行われませんでした。
この過程自体が、“選ぶ”という行為が内包する権力構造や制度的背景を照射する対話的プロセスとなっていたように思います。
さらに、「モニュメントをどこに置くか?」という空間的文脈への意識を高める提案もありました。配置によって作品の意味が変わるという観点は、公共空間におけるアートの成立条件に深く関わる論点であり、今後の展開においても重要な視点となるでしょう。
✨ おわりに
“モニュメント”という形式に対して、「一瞬のときめき」から始まり、「親密な対話」を経て、「公共的なかたち」へと変化させていく――
この授業は、Art and Social Practice の理念を、体験を通じて学び直す極めて実践的な場だったと思います。
「記念碑をつくること」とは、「相手の声を聴くこと」。
そして、それをかたちにすることは、「一人の経験が、他者の想像力を通じて、社会と接続されること」なのかもしれません。
渡辺望
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