アートと社会をつなぐ
アートと社会をつなぐ挑戦!ポートランドで学ぶソーシャル・アート実践




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2025/5/31 18:00
【授業レポート⑥】ケアの旋律を奏でる——身体を通じた“反復と変奏”のプロセス

2025年5月27日に行われたStudent Timeは、ポートランド南西部に位置する地域福祉施設「The Watershed」を舞台に、アーティストのDom ToliverさんとGwen Hoeffgenさんによるコラボレーティブ・プラクティス(共同実践)として実施されました。
The Watershedは、高齢者や障がいのある方々が支援を受けながら暮らす集合住宅型のコミュニティであり、地域とゆるやかにつながる場として、アートやワークショップも積極的に取り入れています。今回の活動は、そうした場において「ケア」や「関係性」「共にあること」をテーマに、アートを通じて丁寧に問い直す時間となりました。
🎭 パートナーとしての初コラボレーションから生まれたプロジェクト
このプロジェクトは、Dom ToliverさんとGwen Hoeffgenさんにとって、パートナーとして初めて公式に行った共同制作となります。ふたりは以前から互いの感性や活動に親しみがありながらも、今回初めてひとつの作品として形にすることで、各々の実践が交わる新たな接点を築きました。
Gwenさんはソーシャルワーカーとしての経験をもち、日常の動作や沈黙の中に潜む感情、言葉にならない記憶と向き合う実践を行ってきました。一方Domさんは、心理学や行動分析、演劇的アプローチを背景に、人との関係性や「存在」に関わるテーマを映像や写真、パフォーマンスなど多様な手法で探究しています。
今回のプログラムでは、掃除という日常行為を起点に、「何が清潔か」「何がケアか」といった個人差・文化差に目を向けながら、共に空間を整えることそのものがケアであり、アートであるという視点を共有していました。
🎵 プレイリストづくりと“自己表現”の共有
セッションは、参加者一人ひとりが「自分を元気づける曲」や「思い入れのある音楽」を紹介し合う時間から始まりました。
Lido Pimientaの〈Te Quería〉を「反骨のエネルギーをくれる曲」と紹介する人、「毎日聴きたくなるようなソウルフルな曲」としてGeorge Bensonの楽曲を挙げる人、またラテンアメリカ出身の参加者は「母がアイロンをかけながらよく聴いていた曲」を紹介し、その場で情熱的に歌い上げる場面もありました。
音楽にまつわる記憶や家族とのつながりが、自然と場に共有されていきました。
こうして構築された即興的なプレイリストは、単なるBGMではなく、「自分を語るメディア」としての役割を果たし、参加者同士の距離をゆるやかに縮める導入となりました。
🧼 モップと身体の“反復と変奏”——日常動作と遊びの交差点
セッションの後半では、モップを使った即興的な身体のやりとりが行われました。参加者はそれぞれ順に動きを観察しながら、他者のアクションを模倣し、そこに自分なりの動きを加えることで、身体を通じた“反復と変奏”のプロセスが展開されていきました。
床を滑らせる、回す、引き寄せる──日常的な動作が遊びへと転じ、即興性を帯びながら、空間にリズムと共鳴を生み出していきます。
この一見「掃除」に見える行為は、実は他者の動きを受け取り、応答し、つなぐという身体的なコミュニケーションであり、DomさんとGwenさんがこのセッションを通じて問いかけていた「ケアのかたち」に他なりません。
とりわけ印象的だったのは、Watershedの住人からかけられた「床を掃除してほしい」という一言。それは単なる要望ではなく、「また来てほしい」「ここにいてほしい」という声にならない願いの現れとして受け取られていました。
Domさんは「掃除することは、ここに“いる”ということの表明でもある」と語り、Gwenさんは「他者の必要としていること、望んでいることを知ろうとするところからケアは始まる」と述べていました。
日常にある「反復」は、ここではアートとケアと関係性をつなぐ行為として捉え直されており、参加者はそのリズムの中で自然と互いを感じ合い、ゆるやかな一体感が生まれていました。
💬 参加者の声と、そこから見えてきた問い
- 「掃除を一緒にするという行為が、空間に責任を持つこと、関係を持ち合うことに自然とつながっていた」
- 「ふたりの関係性そのものが場に安心感を生み出していて、ケアのかたちとしてとても印象的だった」
こうしたフィードバックからは、音楽や身体を介した「共創の仕組み」が日常の中にどのように根づいていくのか、という問いが浮かび上がります。また、アートという行為を通じて、他者の“言葉にならないニーズ”をどこまで聴き取れるのか。そして、「遊び」や「掃除」といった一見何気ない行為が、社会的な関係性をどう変容させうるのか──今後の活動や日常の中で、繰り返し立ち返るべき問いとして浮かび上がっていました。
✨ まとめ:ケアの時間、共にあること
今回の実践から見えてきたのは、即興的なやりとりやケアのあり方を通じて、「誰かと共にいること」をやさしく立ち上げる力でした。
笑いと即興の連なりのなかに、観察と応答が交差していく。
そうした身体を介した反応の積み重ねが、“共につくる”というプロセスを形づくっていたように思います。
「ただいること」「また来ること」というシンプルな行為が、関係性を育み、場をあたためていく。
このセッションは、ソーシャル・プラクティスとしてのケアのかたちを、参加者一人ひとりが身体を通して体感する時間となりました。
そしてそれは、DomさんとGwenさんにとっても、Watershedという場にとっても、今後につながる確かな実感をもたらす時間だったように思います。
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