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2025/6/1 12:00
“This is our museum.”——KSMoCA現地ツアー記録|Kiara Hillさんの案内で学ぶ、アートと教育の交差点

✨はじめに:Kiara Hillさんの紹介と特別な機会について
2025年5月29日、KSMoCA(King School Museum of Contemporary Art)を案内してくださったのは、研究者であり、教育者・キュレーターとしても活躍する Kiara Hill さん。
Kiaraさんは、アメリカにおけるBlack Arts Movement(ブラック・アーツ・ムーブメント)やブラック・フェミニスト・アートを専門とする研究者で、マサチューセッツ大学アマースト校にてアフロアメリカン研究の博士号を取得しています。
自らもブラック・ヴィジュアル・アートのキュレーターとして活動しており、現在はポートランド州立大学(PSU)のArt + Social Practice MFAプログラムで教鞭をとる傍ら、KSMoCAの実践にも深く携わっています。
「子どもたちが“自分の声が芸術において意味を持つ”と実感できる環境をつくること。
それが私たちのアート教育の本質だと思います。」
—— Kiara Hill(Portland State Universityインタビューより)
アカデミックな知見と、現場に根ざした実践が融合したKiaraさんのツアーは、KSMoCAという場の成り立ちや価値を深く理解する、非常に特別な体験となりました。Kiaraさんの案内を通して、KSMoCAがなぜ「ミュージアム」と呼ばれ、そしてどのように子どもたちの創造性と社会性を育む場であるのかを、実感をもって理解することができました。
🏛️KSMoCAのはじまりと背景
KSMoCAは、ポートランドの歴史的黒人地区・アルビナにあるDr. Martin Luther King Jr. Elementary Schoolの校内に位置する現代美術館です。設立は2014年、Lisa JarrettとHarrell Fletcherという二人のアーティストによって構想されました。
「美術館が学校にある」のではなく、「学校そのものが美術館になる」というビジョンのもとに始まったユニークなプロジェクトであり、ポートランド州立大学のArt and Social Practice MFAプログラムの一環として運営されています。大学生、地域のアーティスト、小学生、教員が入り混じる協働の場です。
その特徴は、大きく3つに集約されます:
- 展示空間としての学校:校舎内の白い壁すべてがKSMoCAの展示スペースであり、プロのアーティストと生徒の作品が並列に展示されます。
- 子どもたちがキュレーター/アーティスト/鑑賞者になる:日々の学校生活の中で、アーティストへのインタビューや作品解釈、展覧会の企画運営にも関わります。
- 社会とつながる教育実践:アートを通して、ジェンダー、人種、環境、地域社会など多様なテーマに触れ、子どもたちが「自分の声で社会を語る力」を育んでいます。
KSMoCAは、展示やプロジェクトを通して、「アートとは何か」「誰のものか」という問いを、子どもたち自身に開いていく場です。
こうした実践を通じて、KSMoCAは単なる“学校の中の美術館”にとどまらず、学びのあり方そのものをアートで問い直す場となっています。
“This is our museum.”(ここは、私たちのミュージアム)—— それはKSMoCAの合言葉であり、現場にいるすべての子どもたちの実感でもあります。
✏️KSMoCAにおける“ラベル”の力 —— こどもの言葉が展示をつくる
KSMoCAでは、すべての展示作品に生徒自身が書いたラベル(キャプション)が添えられており、それはこのミュージアムの基本的な実践の一つです。
これは単なる説明ではなく、「アートを見る」「感じる」「考える」ことを自分の言葉で表現する力を育てる、重要な学びの機会です。
生徒たちは展示作品に対して自由に思ったことや感じたことを文章にし、来場者に向けたコメントとして展示に添えます。
その言葉には、驚くほど鋭い観察やユニークな解釈、時にはアーティスト自身が気づかなかった視点が含まれており、展示空間の中で“もうひとつの作品”として機能しています。
Kiaraの解説より:
「子どもたちのコメントには、私たちが思いつかないような視点があって、読みながら“ああ、そう見るんだ!”と気づかされることが本当に多いんです。
彼らの言葉は、アートの見方をぐっと広げてくれる存在なんですよ。」
🎨展示・プロジェクトの紹介とKiaraさんの語り
Napoleon Jones-Henderson「Rhythms of the Ancestors」
2025年3月13日〜5月30日
AfriCOBRA創設メンバーであるNapoleon Jones-HendersonとMs. KahnのクラスおよびKSMoCAメンティー生徒による共同制作プロジェクト。
子どもたちは段ボールや銀箔などを使って「自分の居場所」を表現し、リズムと色彩の調和をもつ「コミュニティ構造体」として壁に展示されました。
アーティストと子どもたちが共作者として並ぶこの展示は、KSMoCAの理念を体現しています。
Kiaraの解説より:
「このプロジェクトでは、子どもたちが“自分にとっての居場所”を形にしていきました。ただ作るだけじゃなく、Napoleonのヴィジュアル言語——色、リズム、構造——を取り入れながら、自分たちの声を持って表現しています。」
「そしてなにより大切なのは、アーティストと子どもが“共に作った”という事実。KSMoCAではそれを展示でも並列に扱っています。」
KSMoCA Students「Our Civil Rights History Revisited」
2015年11月 - 2016年3月
KSMoCAの生徒たちが、公民権運動時代の写真を再現したプロジェクト。当時の構図、衣装、雰囲気を可能な限り再現しながら撮影することで、子どもたちは歴史を身体でなぞるように学び取る体験を行いました。
Kiaraの解説より:
「この再現写真は、ただの“模倣”ではありません。写真の中に自分自身を投影し、“あの時代の誰かになってみる”ことで、歴史を身体で感じ取ることができるんです。」
Wendy Ewald「The Best Part of Me」
2023年4月〜
子どもたちが「自分の好きな身体の部位」を撮影し、その理由を言葉で表現するプロジェクト。
写真家ウェンディ・エーウルドとの協働により、身体性と自己肯定感に焦点を当てた写真と言葉のインスタレーションが構成されました。
Kiaraの解説より:
「“私は自分の脚が好き、だって走れるから!”とか、“指はピアノを弾けるから”とか。子どもたちは本当に自由に、自分自身を語ります。それはもう、立派なアーティスト・ステートメントなんです。」
Lauren Moran「Endangered Species: After Andy Warhol」
2023年
Andy Warholの1983年シリーズ『Endangered Species』に触発されて行われたプロジェクト。子どもたちは現在の絶滅危惧種について調べ、ウォーホル風の色彩と構図で新たなイメージとして再構成しました。
Kiaraの解説より:
「ウォーホルの作品を“真似る”というより、“どう受け取って、自分たちなりに再構成するか”というプロセスが大事でした。環境のこと、動物のこと、自分の知らなかった世界に目を向けるきっかけにもなっています。」
Hank Willis Thomas「Four Freedoms」
2019年11月5日 - 2020年3月5日
「〇〇の自由/〇〇からの自由」をテーマに、子どもたちが自身の言葉と写真で表現したシリーズ。
自由とは何か?を自らに問い直し、それぞれの価値観を共有するプロジェクトです。
Kiaraの解説より:
「“ラップする自由”“嫉妬しない自由”“誰かとつながる自由”——KSMoCAの子どもたちから出てくる言葉は、どれもまっすぐで本質的です。私たちは、その“まっすぐさ”に耳を傾ける必要があると思っています。」
Magnum Photo Agency「Collection of Postcards From America」
2014年
KSMoCA最初の展示として開催された本プロジェクトでは、Alec SothやJim GoldbergらMagnum Photosの写真家による作品が紹介されました。
注目すべきは、生徒たち自身が展示写真を選び、キュレーションのプロセスに主体的に関わった点です。Alec Sothのワークショップのもと、図書室で作品を選定し、投票によって構成が決まりました。
Kiaraの解説より:
「この展示は私がKSMoCAに来る前のものでしたが、今でも子どもたちが“自分で選んだ作品が展示されている”ということにとても誇りを持っています。
作品の横にある子どもたちのコメントには、いつも新しい視点があって、私も学ばされることが多いんです。」
2015年
KSMoCA初期の展示のひとつで、アーティストのジム・ホッジスによる参加型プロジェクト。校舎の壁面に生徒たちの名前や身長、日付を色鉛筆やペンで記録し、それぞれの“存在の痕跡”が積み重なっていきます。
「ただここにいた」ことが記録として残る壁そのものが、アート作品として機能しているのが大きな特徴です。
Kiaraの解説より:
「この壁に書かれているのは、特別な出来事じゃなくて、“ふつうにここにいた”という証なんです。子どもたちは成長とともに背が伸びて、その記録が残っていく。誰かがどこかにいたということを忘れないようにする、静かで力強い展示です。」
🔍KSMoCAを支える人と仕組み:実践の広がりとこれから
KSMoCAでは、アーティストとの出会いもまた「教育の場」として開かれています。アーティスト選定についてKiara Hillさんに尋ねたところ、KSMoCA共同ディレクターであるLisa Jarrett自身が現代アーティストであることから、彼女のネットワークを通じて声をかけるケースが多いそうです。
一方で、KSMoCAの存在を知ったアーティストが自主的に連絡を取ってくるケースも年々増えており、そこから新たなプロジェクトや関係が生まれています。
「今度は1年生の先生であり画家でもあるMr. Pierceが、KSMoCAで初の“教員アーティスト・イン・レジデンス”として展示を行う予定なんです。こうした広がりも、KSMoCAならではの面白さだと思います。」(Kiara Hill)
KSMoCAは、日常とアート、教育と社会実践、子どもと専門家、それらすべての境界を“やわらかくする”場。Kiara Hillさんの案内を通じて、「思考すること」「感じること」「発言すること」が日常にある空間としての美術館の姿を実感しました。
🔜今後の予定:Kiara Hillさんへのインタビュー
滞在中には、KSMoCAやアート教育、ソーシャル・プラクティスに関する考え方について、Kiara Hillさんに改めてインタビューをさせていただく予定です。
教育・歴史・社会批評が交差する彼女の言葉を通して、アートと公共性、そして子どもたちの未来を照らす「教育としてのアート」の現在地を、さらに深く探っていきたいと思います。
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