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2025/6/6 07:30
【授業レポート⑧】“ともにつくる”を学ぶ ― Art with Kids: Museum + Community

🏫 授業概要と背景
2025年5月29日、ポートランド州立大学で開講されている授業「Art with Kids: Museum + Community」(ART428/ART528)を見学させてもらいました。この授業は、King School Museum of Contemporary Art(KSMoCA)と連携し、大学生・大学院生が公立小学校の中でアートと教育の交差点を体験的に学ぶプログラムです。
学生たちは、KSMoCAの運営に関わるとともに、プロのアーティストとの協働、Zine制作、展示設営補助、子どもたちへのメンター的関わり、アートと社会に関するリーディングとディスカッションなどを通して学びを深めていきます。
✍️ Zine制作の最終段階
このセッションで行われていたのは、KSMoCAのレジデンスアーティストであるMr. Xavier Pierceに関するZine制作の最終工程でした。学生たちはそれぞれ担当ページを持ち、文章の編集、レイアウトの確認作業を進めていました。制作の終盤ということもあり、子どもたちとの直接的な関わりはこの日、ほとんど見られませんでしたが、制作中のZineには、子どもたちの描いたイラストや語彙解説、作品に対する感想が多く取り入れられており、その表現やまなざしが丁寧に扱われていることが伝わってきました。
🤝 教員と大学院生によるサポート
授業の進行においては、担当教員のLaura GlazerさんとKiara Hillさんが、学生の主体性を尊重する姿勢で全体をファシリテートしていました。彼女たちは完成に向けた作業を見守りつつ、学生の考えを丁寧に聞き出し、判断や工夫を引き出すようなかたちでサポートを行っていました。
また、この日は大学院生のDomさんが学部生の作業をサポートする姿も見られました。教員だけでなく、学生同士の関係性の中にも学び合いの雰囲気がにじんでいたのが印象的でした。
👥 メンターシップの手応え
参加学生のひとりがメンティーとの関わりについて次のように語っていました。
“At first I wasn’t sure how to talk to him. But once I asked about his favorite games and shows, he just lit up.”
(最初はどう話しかけたらいいか迷っていたけれど、「好きなゲームや番組は何?」と聞いたら一気に表情が明るくなったんです)
率直な言葉のやりとりから始まるコミュニケーションが、年齢や立場を超えた信頼関係につながっていく様子が印象的でした。
この日サポート役として関わっていた人物が、制作しているZineはアーティスト紹介ではなく、メンターシップに焦点を当てたものであることを説明してくれました。
“So, we were tasked with making a mentorship zine, so we\'re not working on the artist zine, we\'re working on the mentorship.”
(私たちはメンターシップに関するZineをつくるという課題を与えられていて、アーティストについてのZineではなく、メンターシップに取り組んでいます)
また、学生のひとりは次のように語っていました。
“I made a couple of pages for the don’t worries because there\'s a common concern as to like tattoos or like gender identity or pronouns and then clothes.”
(私は「the don\'t worries(心配しなくていいよ)」というページをいくつか作りました。というのも、タトゥーとかジェンダーアイデンティティ、代名詞(性自認に応じた呼称を尊重するための言葉。例:she/her、they/them、he/they など)、服装などについて心配する声がよくあるからです)
📝 まとめ
Zine制作においては、プリントアウトされたページが教室内に貼り出され、全体の構成や流れを視覚的に確認する姿も見られました。最終的な完成に向けて、学生たちは細かな調整を重ねながら全体の仕上がりを見渡していました。
この授業に参加して感じたのは、学びとは知識を蓄積するだけでなく、他者と関わりながら手を動かし、実際に“つくる”という行為の中で深まっていくということでした。大学生と小学生、アーティストと教育者、それぞれの立場や年齢を越えて交わされるやりとりには、想定を超える視点や発見があり、言葉では拾いきれないような学びの豊かさが存在していました。
Zineをつくるという一見小さな行為の中に、観察する力、聞く力、伝える力、そして誰かと何かを一緒に作り上げるという協働の感覚が宿っていたように思います。子どもたちの素直な視点や反応は、大人の私たちにとっても大きな刺激となり、それぞれの表現や発言に対して「どう応えるか」を真剣に考えさせられる時間でした。
KSMoCAというユニークな場で、「美術館が学校にある」ことの意味を身体で体感しながら、知識と経験が自然に結びついていくこの授業は、アートと教育の新しい可能性を実感させてくれるものでした。そこには、つくることの喜び、人と関わることの楽しさ、そして学びが“生きる力”と結びつく感覚が確かに存在していました。
「Art with Kids: Museum + Community」は、教育とアートの境界を越えて、子どもと学生、教員とアーティスト、それぞれの視点が出会いながら新たな学びの形をつくる場であると感じました。知識と実践、つくることと考えることのあいだに立ち、共に関わりながら形にしていくこの授業のプロセスそのものが、アートと教育の未来を探る手がかりとなっていると思います。
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