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アートと社会をつなぐ挑戦!ポートランドで学ぶソーシャル・アート実践




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2025/5/29 22:00
【授業レポート⑦】問いと遊び:ポテトからひらく「分断」と「再接続」の思索

こんにちは。渡辺望です。
5月28日にポートランドへ無事到着しました。
本日は、渡米後はじめて現地で対面参加した「Student Time」のレポートとなります。屋外での身体的な実践を通じて、Art and Social Practiceの本質に触れる時間となりました。
📍背景と目的
この日の「Student Time」は、Shattuck Hall前のPark Blocks(芝生と並木に囲まれた公共空間)で実施されました。
事前には「動きやすい服装で来てください」「このアクティビティは参加人数に依存します」といった案内があり、屋外での動的かつ協働的な実践が予想されていました。
今回のアーティスト(学生)は、個人とコミュニティの安全、脆弱性と親密さ、そして良い人生を送る方法といった問いに向き合う作品を制作しており、この日のアクティビティでは「ただ楽しい時間を過ごしたい」と語りながら、アメリカのバラエティ番組『Survivor』の構造をベースに場を構成しました。
「世界は大変なことばかりだけれど、だからこそ遊びの時間が必要だ」というその言葉には、幸せに生きることを大切にするアーティスト(学生)の姿勢が、静かににじんでいたように感じます。
🌀 活動の構成:『Survivor』風チャレンジ
アクティビティは、アメリカのバラエティ番組『Survivor(サバイバー)』に着想を得て構成されました。(※同番組は2002年にTBSでもローカライズ版が放送されています。)
参加者は小石を使ってチーム分けを行い、以下のような5段階のステージを協力して進めました。
- 「3つのポテトを運ぶバスケット」の制作
- 傘の柄を掴んでくるくると10周して目を回してから、障害物を超える
- 白いマスをジャンプして進む
- ラフィアの輪にポテトを投げ入れる
- カードを使って言葉を完成させるパズルゲーム
パズルでは、「h, a, s, i, c, o, c, L, a」の9文字を使って言葉をつくる課題が出されました。
初めはどのチームも「social〜」など、Social Practiceに関連する言葉をつくろうと試みましたが、正解にはたどり着けませんでした。
最終的に「Coach Lisa」(MFAプログラム・ディレクターのLisa Jarrett)という正解が導き出されると、場は大きな歓声に包まれました。
このプロセスには、アーティストの意図的な仕掛けがあり、参加者が文脈を読み解きながらたどり着く設計になっていたようです。
🪓 再演作品:Lee Walton《Potato Splitting Contest》
次に行われたのは、斧を使ってポテトを1回のスイングで真っ二つに割るというシンプルで大胆なチャレンジでした。
割った2片の重さを測定し、どれだけバランスよく切れているかを比べます。
この行為は当初、オリジナル作品としての出典が不明でしたが、授業中にLisaが別の教員に電話で連絡を取り、最終的にアーティスト本人と繋がったことで、同プログラムの卒業生であるLee Waltonによる2015年の作品《Potato Splitting Contest》であることが明らかになりました。
無名のまま行われた再演が、リアルタイムでの調査と対話によって“誰かの作品”として再び位置づけられていく流れは、まさにSocial Practiceの「記録と記憶」をめぐる実践だと感じました。
🥔 創造的な展開:「植える」行為
活動の最後には、再演された作品とは別に、アーティスト(学生)による独自の要素として、切られたポテトを地面に植えるという行為が加えられました。
分断されたポテトを土に戻すこの行為には、「つながり直すこと」や「再び育てること」への静かな願いが込められていたように思います。
ただ再演するだけでなく、そこから新たな行動を生み出す構成は、Social Practiceの柔軟性と未来志向を象徴していました。
🌿考察
今回の「Student Time」は、競争・遊び・協働・記憶・記録といった複数の要素が交差する、非常に豊かな実践の場でした。
アーティスト(学生)は、参加者が身体を使って動き、わからないことに出会い、他者と対話しながら気づきを得るプロセスを丁寧に設計していたように感じます。
知らなかった作品に触れ、その文脈をたどりながら再演し、さらに自らの行動で物語を紡いでいく——
その一連の流れには、Art and Social Practiceが大切にしている「関係性」「共同的学び」「再解釈」が自然に組み込まれていました。
✨おわりに
ただの遊びに見えるような活動のなかに、「他者とどう関わりながら、自分らしく生きていけるのか」といった問いがさりげなく埋め込まれており、参加を通じて自然とそれらに向き合うことになりました。
ポテトを斧で割る行為は、「分断」や「均衡」を体感的に考えさせるものであり、さらにその断片を地面に植えるという結びの行為は、「つながり直すこと」や「芽吹きへの希望」を象徴していたように思います。
声高に主張するのではなく、遊びや笑いを通じて社会との関係を静かに見つめ直していく——
そのささやかな実践の中に、Art and Social Practiceの本質が確かに息づいているように感じました。
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