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アートと社会をつなぐ挑戦!ポートランドで学ぶソーシャル・アート実践




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2025/5/30 09:30
【インタビュー①】Emily Fitzgerald ― 写真を通じた関係性と、子どもたちとの創造的実践

2025年5月29日、アーティストで教育者のEmily FitzgeraldさんにZoomでインタビューを行いました。Emilyさんは、写真を起点にしながら、他者との共同作業によって社会と関わる表現を追求しているアーティストです。今回はその実践の核や教育的視点、そして彼女自身の創造の原動力についてお話を伺いました。
「ともにストーリーをつくる」表現としてのイメージ
Emilyさんの実践の中心には、社会との関係性と視覚的なイメージがあります。ただ「誰かを撮る」のではなく、共にイメージをつくるという協働的なプロセスを通して、個人やコミュニティのストーリーを可視化していくことを重視しています。
「写真は、被写体と撮影者という関係を超えて、参加者と共に“語る”ための道具になります。撮影だけでなく、どのイメージを選び、どう編集し、どのように発表するかというすべてのプロセスを共に行うことで、“見る/見られる”という関係を超えられるのです。」
Emilyさんのプロジェクトは「問い」から始まり、その問いが観る人にも新たな思考や対話を促すよう設計されています。また、個人的なストーリーが政治的・社会的な文脈と交差する地点に深い関心を寄せているのも彼女の特徴です。
King School Portrait Project ― 関係性を育む表現の試み
大学院1年目にEmilyさんが取り組んだ「King School Portrait Project」は、彼女の社会的実践の出発点を象徴するプロジェクトです。これは、KSMOCA(King School Museum of Contemporary Art)が誕生する前、PSUとKing Schoolとの協働関係を構築する過程で生まれました。
当時、ティーチングアシスタントとしてそのパートナーシップの橋渡しを任されていたEmilyさんは、卒業生のMolly Shermanさんとともに、子どもたちの言葉をポスターにして地域に掲示するプロジェクトを開始。しかし、表現の自由と教育現場との間で意見の衝突が起こる場面もあったといいます。子どもたち自身の手書きのフレーズは素直で力強いものでしたが、校長など学校側の一部からは「リアルすぎる」と懸念が示され、掲示が見送られた言葉もあったといいます。
例えば、エチオピアから移住してきたばかりの子どもが書いた「follow your heart + lakorize(自分の心に従って、創造しよう)」という言葉。字がうまくないという理由で学校側から掲示をためらわれましたが、Emilyさんは「この子の背景と想いを知っていればこそ、この言葉の美しさは伝わる」と強く感じたそうです。
その後、social practiceを取り入れた写真表現を研究・実践しているアーティストGemma-Rose Turnbullさんと協働し、「King School Portrait Project」が始動。子どもたちは写真撮影や編集に主体的に関わり、自らを表すイメージを選ぶことで、ストーリーテリングの担い手となっていきました。プリントされた写真は校舎の窓に貼られ、学校と地域を結びつける視覚的な対話の場が生まれました。
「地域と学校の関係性を可視化し、社会的実践の可能性を提示することがこのプロジェクトの目的でした」
とEmilyさんは振り返ります。
教育の実践としての「寄り添いと対話」
現在、EmilyさんはMFAプログラムを中心に、学生たちと深く関わりながら教育活動を行っています。彼女のアドバイジングは、単に「教える」のではなく、一人ひとりの関心や資質を丁寧に見極め、適切な問いや環境をともに模索していくものです。
「学生の実践や思考に耳を傾けながら、“今この人に必要なことは何か”を見極めて、支えたり、時には一歩前に進むためのきっかけを提示したりします。」
成長を促す「ほどよい挑戦」と、安心して取り組める「支え」のバランスを保ち、学生が自らの社会的実践を深められるような関係性を築いているとのことでした。
終わりなき問いと、イメージへの尽きぬ関心
Emilyさんにとって、視覚的なイメージは単なるビジュアルではなく、他者の世界の見方を知るための小さな窓のような存在です。
「人が世界をどう見ているのかに触れることは、とても親密で貴重な体験です。作品を通してそれに出会えることが、私にとっての大きな喜びでもあり探求でもあるんです。」
彼女のプロジェクトはしばしば長期にわたり、現在も複数年にわたるテーマを継続的に掘り下げています。個人的な経験を入り口に、社会的・政治的な問題へと接続していくその実践は、まさに問いを深め、よりよい問いを見出していくプロセスでもあるのです。
家族、教育、アート ― 絡み合う三つの実践
インタビューの終盤では、子育てとアートの両立についても言葉が交わされました。Emilyさんも私も幼い子どもを育てる母親であり、「離れている不安」や「親としての責任とアーティストとしての挑戦の両立」など、さまざまな感情を共有しました。
「家族、アート、教育…どれも私の人生の一部で、互いに影響し合っています。ある意味、それぞれがそれぞれのストーリーテリングを支えてくれているのかもしれません。」
最後に
Emilyさんの実践は、ストーリーテリングとイメージを通して、人と人との関係をつくり、深めることに重きを置いています。アートと教育、そして個人の生活が複雑に絡み合いながらも共に前進するその姿勢は、これから社会的実践を志す多くの人にとって、大きな学びと希望をもたらしてくれるでしょう。
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